見透かされている気がした。

 

「生まれ持ったといえど、一度背負ったものはそう簡単には捨てられん。つまり、いずれ必要になる時がくるということだ。今のお前は見えてないのではなく、見ようとしてない」

「またそれもありがたい仏様の教えか?」

「愚かな私の経験の話だ。運命というやつは知らんどるうちに動き出す。変化が目に見える形になってからじゃあ間に合わんかもしれん…」

「そりゃ、ありがたい話だねぇ」

 

「昔のお前は人より多くを持っとった。他より聡明な子供だった。体格にも恵まれ、多くを学べる環境におった。そして、他の子らに比べてお前は特別だ。いや、特別だった」

「…」

「お前はまだ心のどこかで自分を特別だと勘違いしとるかもしれんが…」

「さすがにそこまでの自惚れは…」

「自覚をしとらんようだな。こないだ電話で話して確信した」

 

「今のお前は十二分に普通だ。いや、今はむしろそれ以下だ。目を逸らしてばかりで自分自身と向き合うことができんと、お前は役を割り振られた時、受け止めきれんかもしれんぞ」

他でもない円覚さんの口から出たその言葉は、俺の胸の深いところに間違いなく突き刺さった。

 

 

 

「…あんたが俺に言ったんだで“人生は船旅のようなものだから、船を沈める重荷になるものは置いていけ”って…」

「その言葉の意味はそうではない…お前がしとることは、生まれ持った手足をちぎっとるようなもんだ」 

その言葉を聞いた俺は 

地面を足元から崩されたような気持ちになった。

 

手足が冷たくなり、胸にポッカリと穴が開き、冬の冷たい空気が頬を刺してきて、信じていたものが急に信じられなくなった。

目の前の円覚さんも、自分自身さえも。

 

 

ボーン

 

 

「あ…あんたにしたらそうかもしれんが俺にとっちゃあ、あんたがさっきから言っとるそれがこそが不要なんだで」

 自覚した途端、沸騰したように頭に血がのぼり、俺は無性に腹が立った。

一方で、子供のように癇癪を起こしている自分を他人事のように思う俺もいた。

 

俺の中の冷静と激情は完全に分離していて、体を制御できない。

 

 

ボーン

 

 

「俺は普通にしとりたいんだっ!あんた何にも分っとらんっ!何が役割だっ!目に見えんモンに祈りなんぞ捧げたところで何が変わるだっ!俺はそんなもんが欲しいだなんて一言も言っとらんだろうが!」

 

 

 

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