ビューッ!キキッ!
「わッ!」
固い地面をぺたぺたと走り進んでいくと、とんでもない速さで近づいてきた光る眼と車輪のついたでっかいのが、大きな音を立ててオレのすぐ隣を走り抜けた。
あっぶねぇなぁ…
驚いて足を止めると、そいつも止まって点滅する赤い目でにらみつけてきた。
しばらくお互いににらみ合っていたが、少しすると慌てたようにその場を走って離れていった。
よくよく見ると中に人間が入っている。
どうやら乗り物のようだ。
そいつは一つだけじゃなくて何個も何個もオレの隣をすり抜けていく。
みんなものすごい速さで駆け抜けては、しばらく進むとまた赤い目を光らせて止まるのを繰り返している。
「んんぅ?」
そこでオレはついに発見した。
とってもとっても前のほうに止まっているヤツの一つから、例の光の跡が伸びている。
「あーーーッ!」
ちょうど今、後ろ向きの赤い目を点滅させながら止まっている。
頑張って走れば追いつけるかもしれない。
そいつはブルンブルンとうなり声をあげながら、今すぐにでもまた走り出しそうだ。
待って。待ってくれ!
そう思うが早いか、オレは走り出していた。
冷たい空気が顔を押さえつけるが、体に巻きついた薄い布をはためかせてオレは風になったみたいに走った。
「はッ はッ はッ 」
走っている間、たくさんの人間がオレの横を通り過ぎた。
人間たちはオレが目の前を通っても、走りながら体がぶつかっても、誰一人としてオレのことを気に掛けない。
まるでオレのことが見えてないみたいだった。
オレのことが見えるのは、あの大きい人間しかいないのかもしれない。
だとしたら、やっぱりあいつを追いかけないと。
あいつを入れた乗り物はオレが追いつくかどうかのところで、赤い目を点滅させぶぅんぶぅんとうなり声を大きくし始めた。
さっき蹴っ飛ばされた時みたいに、あとちょっとのところで逃げられてしまってはたまらない。
オレは地面を力いっぱい蹴って、乗り物の後ろに飛びついた。
今度はしっかり捕まえたぞ。
オレがつかまると同時に、それは爆発するみたいな音を立てて走り出した。
目の前には、うっすら光を放っている大きい男の後ろ姿が見えている。
手を伸ばそうとしたけれど、乗り物から振り落とされないようにしがみつくだけで精いっぱいだ。
「あわわわわわわわ」
右に左に体を揺さぶられながらオレはがむしゃらにしがみつく。
ミシミシと、音を立てながら金属の板が手の形に凹むのが感触でわかった。
それくらいにオレは必死だった。
「あばばばばばばばば」
オレが自分の足で走っていた時とは比べ物にならない速さで乗り物は駆け抜けた。
そして何の前触れもなく悲鳴みたいな音をあげながら急に止まった。
体が反り繰り返るんじゃないかってくらいつんのめって、オレはころりと転がり落ちた。
「あぎゃッ」
その拍子に懐から飛び出した大切なものが、カラコンッと音を立てて地面に転がった。
カランッ カコンッ
同時にばたんッと大きな音が頭の上で響いた。
地面に転がったまま車輪の隙間から覗き見ると、さっきつかみ損ねた足を見つけた。
山の中ではバタバタ元気に走り回っていたやつとは思えないくらい、ふらふらした足取りで今にも倒れてしまいそうだ。
「お客さん、体調悪いの?」
乗り物の中から、心配そうな声がした。
大きな男が片手をひらりと上げた後、乗り物は走り去っていった。
相変わらずブオンブオンと化け物の唸り声のような爆音だ。
大きい人間は少しずつだがオレから離れていく。
オレは慌てて立ち上がり落としたものを拾い上げると、今度は落とさないようにしっかりと握りしめ追いかけた。