大須に服屋は数多く存在する。普段着から冠婚葬祭に至るまですべてが揃う。円覚さんは孫を見るような目で、少年を甘やかしまくり欲しがる服を買い与えた。

 

「じゃーん!」

結果がこの様だ。

 

「あー…」

「おおっ!似合っとる似合っとる」

俺のセンス云々は置いとくとして、わかった事はこいつのセンスも相当じゃないかってことだ。

 

「どうどう?っへへーん!めーっちゃかっこいいだろ!」

 

この真冬にノースリーブの和服。サルエルパンツに厚底ブーツだ?指出し手袋なんてどこから見つけてきたんだか。

まぁ、どれも普通に売ってるだろうな。大須だし。

 

「龍が俺とかぶっとるッ」

「龍の一つや二つかぶるだろう。ここは大須だぞ」

「金鯱キーホルダーも!」

「金鯱だって被る。ここは名古屋だ。細かい奴め」

 

「サンキュー!はg…えんかくさん!」

 

 完全にさっきのチンドン屋から何かしらの影響を受けたファッションすぎる。一周回っておしゃれに見えてきた。いや、むしろこれが最新の若者のおしゃれなのかもしれない。

 

「ところで名千よ。買い物をしながら私も少し彼と話をしてみたんだが、いくつかわかった事があるぞ」

 円覚さんはそっと声を潜めて俺に耳打ちしてきた。

 

「やはり彼は裏山の塚から来たらしい。それもこの世にあらわれた瞬間は赤ん坊の姿をしていた。お前さんを追いかけとるうちに、あのような少年の姿になった」

「つまり、それはどういうことだ?」

「姿は少年でも中身はほぼ赤ん坊と変わらんということだ。人間でないことは間違いないが、自分が何者なのかもわかっておらん」

「んなこといったって…おい、どうした!」

 

見るとさっきまで飛び跳ねていた少年は頭を抱えてうずくまっていた。

 

「うぅ、頭痛い…」

「人酔いしたか?少し人の少ないところへ…」

「うるさい…うるさいうるさいうるさいっ」

「おいおい…おちつけって」

 

 周りにはこれだけの人間がいるのに、しゃがみこんだ俺たちを気にする者はいない。いや、気にしないようにしているのか、人の流れは止まることなく俺たちを避けて流れ続けている。

 

「ッチ!急にどうしたってんだっ」

俺はおろおろするしかできない。

 

 

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