第一話 子鬼塚の怪

 

 

ねんねんころりよ おころりよ 

坊やは良い子だねんねしな

ねんねんころりよ おころりよ

 

昔よく母が歌ってくれた子守唄があった。

誰だってそうだと思うが、ガキの頃の俺は自分が特別な存在なんだと思ってた。

相手の考えてることが手に取るようにわかったし、やたら運が良かった。

急死に一生を、なんてことはしょっちゅうだったが今もこうしてピンピンしてる。

 

ただ『特別な存在』は必ずしもいいことばかりじゃあなくて、いつからか孤独だと感じることが増えていった。

胸のところがグニャグニャするとか、腹の奥に黒くて重いものが居座ってるとか。

 

当時の俺は感情を表現する言葉を知らなかったから、そうなってしまう自分が怖くて泣いていた。

そういう日の夜、母親はいつもこの子守唄を唄った。

唄を聞いていると、自分の小さくて柔らかい体を破って暴れ出そうとしていたそれが、ツノを突かれたカタツムリのようにスッと引っ込んでいった。

 

特別な自分が嫌いで、周りの子供の無邪気さに憧れた。

普通の子供になりたかった。

ガキの頃の話だが、いまだに思い出すんだよ。

記憶の中の母ちゃんは、どんな姿でも俺の母ちゃんしてんだ。

 

十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人だなんてよく言ったもんで、今じゃあ見る影もねぇ。

きっとあの頃の母ちゃんも、俺がこんな大人になるなんて想像もしてなかっただろうよ。

 

 

進む→

←一覧に戻る

 

YouTube
裏名古屋奇譚
twitter名千
twitter名千
twitterレッド
twitterレッド