言われてみると、一般参賀には若い女性の参拝者が多いような気がする。
「あぁ、だで俺と鉢合わせる訳にはいかんのか」
「そういうことだ」
雲行は、昔は俺に対して限定で「立てば芍薬 座れば牡丹 口を開けば火災報知器」 みたいな奴だった。
円覚さんの口ぶりからすると、どうやら美貌と一緒にそっちも健在のようだ。
面倒ごとと不利益は避けて通りたい、というわけだ。お互いに。
前後の人々に軽く頭を下げ、俺は円覚さんと一緒に階段を登り始めた。
「あれから何年も経ったなぁ。お前、仕事は自営業と言っとったが何をやっとるんだ?」
「仕事?自営業は、自営業だよ」
話しながら、円覚さんは長い階段を足取りを緩めることなくさかさかと登り続ける。
体力バケモンのジジイか。
自慢じゃあないが俺も普段からそれなりに体を鍛えているつもりだ。
それでもこの石段は結構膝にくる。
「ほう、まあ良い。寒かっただろう、上で甘酒でも飲んで温まりなさい」
「…はぁ、甘酒は好きじゃねぇんだよなぁ、俺はいも焼酎の方がいい」
「文句を言うな。好き嫌いが多いのは直っとらんようだな」
もう何回目になるかわからない除夜の鐘の音が、徐々に大きく聞こえだした。
時計を確認するともうあと30分もしないうちに、今年が終わろうとしている。
「実はな名千、話をしとかんとかんことがあって、今日はここへ呼ばせてもらった」
本堂が見えはじめ、じきに階段を登りきろうというところで、円覚さんは足を止め振り返り俺を見た。
「あぁ?厄除けじゃねぇのか」
「それも少なからず関係しとる」
いやに神妙な表情を浮かべているものだから、思わず俺の肩にも力が入った。
急に周囲の喧騒が遠くなったような気がする。
「何もなければそれでいいと思っとる。だがな、胸騒ぎがするんだよ。これを徳と呼ぶには烏滸がましいが、私もそれなりに経験は積んできたつもりだ」
「厄年とは災難や障りが起きやすい人生の節目の年であり、同時に役割の年とも言われとる」
「役割の年?」
「人は元来にして孤独である。故に孤独を理解し隣人と助け合う。持つものは与え、持たざるものは受け取る。それを繰り返し、生きる意味を知る。ありがたいお釈迦様の教えだ」
「それが一体なんの関係があるんだ」
「関係大有りだ。名千よ。自分の本当にしなかんことは何か考えたことはあるか。お前さんを形作る芯はなんだ」
円覚さんの問いに、俺は言葉を詰まらせた。
階段の段差のせいか、高い位置から円覚さんの声が降ってくる。
まるで昔に戻ったみたいだ。
「今、心の内でも応えることができんのなら、お前は一度本来の自分自身と向き合う必要がある」