暗闇の中、草木の間を転がり落ち、枯れ枝やなんかに顔を引っ掻かれながら、俺は必死で足を踏ん張った。
それでも、勢いづいた185cmの身体はなかなか止まってはくれない。
抵抗虚しく、そのまま滑り落ちた先で俺は身体をしこたまに打ちつけた。
「ぐっ…いってぇ」
おかげで滑落は止まったが、今度は倒れたままの俺の頭上でガラガラと石が崩れ落ちる音がし始める。
「…ッヤッベェ」
俺は咄嗟に頭を抱えて地面を転がった。
大きな石の直撃は免れたものの、そこそこのサイズの石はぶつかってくる。
衝撃に耐えながら、四つん這いの俺はその危険地帯から脱出することに成功した。
「あっぶねぇ…し、死ぬかと思った…」
急死に一生とはまさにこのことだ。
身体は全身ところどころが痛むし、普段使わない筋肉を使ったせいか、足が攣りかけている。
明日になったらどでかいアザがそこいら中にできていそうだが、さっきまで自分が転がっていたであろうところに大きな岩を見つけてしまっては、不幸中の幸いってやつだと思うより他ないだろう。
「はぁ…マジで…最悪」
俺は服についた泥を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「ヨッコラセッと」
徐々に目が慣れてきて、暗いなりにあたりの様子が見え始めた。
俺が先ほど転がっていた場所には、元々は高く積まれていたであろう岩や石が見るも無惨に崩れ倒れいてた。
多分、先ほど自分がぶつかったことで崩れてしまったんだろう。
それから俺が今いるこの場所は、どうやら山の中でも少し開けた場所のようだ。
「…こんな場所あったか?」
この場所は風の音さえ聞こえない。
風がないから小枝のぶつかる音も、木の葉が擦れる音もしない。
周囲は完全に無音。
勝手知ったる山だと思っていたが、ここは完全に知らない場所だった。
まるで空気が違う。
周囲は相変わらずの闇。
僅かに届く月明かりが木の影をより一層濃くし、この森の不気味さを俺に思い出させた。
「そだ、ライター」
目が慣れてきたとはいえ、俺はあまりの暗さに我慢ならずポケットから出したライターで明かりをつけた。
「こりゃまた…」
崩してしまった石山をよく見ると、下のあたりはそれなりにしっかりと石が組まれている。
今はもう崩れてしまっているが、石の大きさは大小様々で、岩と呼んでもおかしくないほどのサイズのものから小石くらいのやつまである。
灯篭のように丁寧に作られているわけではないが、こうも意図的に石が積み上げられていたとすると…
「待て待て待て…こりゃ塚的な何かか?」
不信心を掲げる俺でも流石にこれには血の気が引いた。
偶然とはいえ見ず知らずの相手の墓を破壊してしまったのだ。
墓だけに。
気持ちの上だけでも余裕を持とうとふざけてみたが柄にもなくびびっているのか、やたら喉が渇いて俺は無意識に喉を上下させていた。
「ゴクリ」
無音の中、自分自身の唾を飲み込む音がやけに大きく感じた。