オレの伸ばした手が、灯りに届くことはなかった。

短い悲鳴を上げて、灯りはすぐに消えてしまった。

けれども灯りを見上げた先に、大きな何かがいたのをオレは間違いなく見ていた。

 

「なんかいたッ!なんかいたぞ!今絶対なんかいたっ!」

 

じゃりじゃりじゃりじゃりっ

すぐに、テンポよく地面をたたく聞き覚えのある音がした。

地面はわかる。

ずっと自分がいた場所だから。

 

走り去るものの姿が、今まで暗闇ばかりを映していた目に届く。

見る、視る、観る。

 

見れば見るほど、今まで聞き続けていた音が鮮やかに、そして膨大にオレの頭の中で輪郭を作り出す。

大きいそれがどんどん遠ざかっていって、あの音は足が地面を踏みしめてなる音だってことを知った。

 

「お…あ…?い…」

ここが外の世界。

オレの考えていたことの答えがある場所。

 

それが去った後、残されたオレは小さい手足を目いっぱい伸ばした。

残りの体が埋まっている土をもこもこと押し上げ、のしかかる石をのけ、体にまとわりつく布を引っ張って地上に這い出てきた。

体を進めようと手を伸ばした時、手に当たったものがあった。

  

カラ…

 

 「ぅあ…?」

つかんでみると手によくなじむそれ。

 

「んぁっ…だっ…ったっ…たっ!」

 

コン…コンコン…コンコロコロ…コンコン…

 

それからはあの幸せの音がした。

あぁ、安心できる。

この音はこんな形のやつが出していたんだ。

 

オレはそれを手にしっかり握りしめ、腕を振ってカラコロ鳴らすと不思議とすべてが大丈夫だと思えた。

でも、手を止めてしまうと、途端にその幸せは消え去った。

 

 

 

暗闇に慣れている目で見渡したこの場所は寒くて、静かで、孤独だ。

望んで出てきた外の世界だったが、このままここに一人でいるのは嫌だと思った。

胸のところがゆらゆらする。

 

もう、ここで眠り続けていたくない。

一人はいやだ。

 

そう思ってしまうとなんだか頭の前のほうがグルグルして、耳の後ろが痛くて、腹の中身を引きずり出されるみたいな感覚だった。

今まで優しい眠気が奪い取ってくれていた自分の中から生まれるよくないもののすべてが、体の中からあぶれだしてくる。

それがなんと名前の付くものなのか、わからない。

 

目に映るもの、手で触るもののすべてが初めてだと思うのに、同じくらいこの感覚を知っているような気もする。

どうしてそう思えるのか知りたい。

 

わからない。

知りたい。

わからない。

知りたい。

知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい。

 

そう思ったらオレは手足を動かしていた。

 

 

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