「むぅ…」
周りを見渡しながら進んでいると、オレはポコポコと頭の中でいろんなことを思い出し始めた。
例えば周りにあるのは木だとか、地面にあるのは土だとか石だとか葉っぱだとか。
頭から生えたもじゃもじゃは髪の毛で、さっきの大きいのは多分人間の男だ。
寒いから今の季節は冬。
そんな本当にいろいろなことだ。
ぼんやりと、オレはきっと眠る前は外の世界にいたんだろうと思った。
「んッ…んー…」
光の後を追いかけていくと、木々の開けた場所に出た。
目の前の景色が急に変わったものだから、オレは思わず足を止めた。
景色が違う。下を見ると地面も違う。
ぴっしり明確に境界が引かれていると直感した。
木々の生い茂る森と、その向こう側。
まるで別の世界みたいだ。
そして、さっきまでと決定的に違うのが、新しく目の前に現れた景色を見てもオレは何も思い出さないということ。
「んー…いー…うー…」
オレはその場で立ち尽くしてうなりながら体をゆすった。
胸がどきどきして落ち着かないし、指の先が冷たい。
身の置き場がないような感じだ。
そわそわしてどうしようもない。
「う~~~~~~~~~」
歩きながら徐々にいろいろなことを思い出し始めたオレにとって、見ても何も思い出さない境界の向こう側の世界は本当の意味で未知との遭遇だ。
さっきまでの地面と違って平坦なのも奇妙だし、この境界より先の地面はめちゃくちゃ固くて岩や石のようだ。
それがずっと均一な幅で続いているのが不気味すぎる。
向こう側には葉っぱが付いた木がほとんどないし、代わりに枝のない無機質な鉄の木が生えている。
しかも光ってる。
大きな見たことない形の屋敷がたくさんある。
さっきの大きな人間の痕跡はきれいな筋を描いて、わかりやすく境界の向こう側を移動したことを示している。
追いかけるには、オレはここを進まなければならない。
試しにそろり、と足を延ばして足の裏で地面をたたいてみた。
ぺたッペタッ
足の裏の感触が違う。
うーん、固い。
色は鉄のように真っ黒だけど鉄とは違うし、石畳とも違う。
オレは大きく息を吸って、一歩踏みだした。
一度上に乗ってしまえばなんてことはない。
むしろ石も小枝もなくてさっきより歩きやすい。
これなら追いつけるかもしれない。
そうでも思わないと、知らない場所を一人で進むには勇気がいる。