「んッ!」
オレは心を決めて未知の地面を駆け出した。
固い地面の世界は、木々の生い茂るさっきまでの景色と違ってまるで別物だった。
空のはるか高い高いところにある月と星とは別に、いろんな場所が明かりを灯している。
さっきの鉄の木の上も、高い壁のような大きな屋敷も。
音だけだとわからなかった外の景色が、目の前に広がっている。
オレはいつの間にか速度を落として周りを見渡していた。
「…ぁ」
ぼんやりと辺りの景色に見とれるオレの向かいから、人影が近づいてくる。
オレはとっさに頭にかぶっている布を引っ張って縮こまった。
さっきの大きい男以外、近くで人間を見たのは初めてだ。
逃げていったあいつと違ってこっちの人間は光ってない。
「…」
人間は二人連れで、薄い布一枚をかぶっているだけのオレと違ってモコモコとたくさんの服を着ている。
暖かそうでうらやましいと思った。
「ママ寒い~おんぶ~…眠い…」
「お家で寝とっていいって言ったよね?まーお家つくで頑張って」
向かい合って話をする二人の人間は、オレのすぐ横をすれ違っていった。
伸ばせば手が届きそうなくらい近くにいるのに、こちらには見向きもしない。
まるで、オレが見えていないみたいだ。
「だっておみくじ引きたかっただもん」
「大吉だったでよかったね」
オレは二人がまったく自分に気づいていない事に、胸のところがスカスカするのを感じた。
「うん、ねぇママ。お手て握ってぇ…なんかちょっと怖い」
「…そうだね、夜だもんね」
「あったかいね」
「そうだねぇ」
手をつないで歩く二人を見て、オレは持ったままだった幸せの音を握りしめた。
小さなそれだけじゃ足りない。
一旦無くさないように布の隙間にしまい込んでから、オレは自分の両手をつないでみた。
けどやっぱりなんか違う。
あっちのほうが暖かそうだ。
さっきより孤独に感じるのはなんでだろう。
「まま…さむい…おまいり…おみくじ…おてて…にぎって…」
オレは、通り過ぎて行った小さい人間の言葉をぽつり、ぽつり、と繰り返した。
オレはずっと一人だったはずなのに、なんでこんなに寂しく感じるんだろう。
何かが、足りない気がする。
それがなんなのか、今はまだわからない。
光の軌跡は、先へ続いている。
『それ』を知るためにも、オレは一人で走り続けないといけないんだろう。